4月24日木曜日四月二十四日木曜日「男と女なんてさ、寝ても寝なくてもいつか終わりがくるもんだよ」 その人は、自分で吐き出した煙草の煙に眉をひそめて云った。 「そばにいられるだけでいいっていうのは別かもしれないけど、それでもいつかは離れていくと思うけどね。俺は」 「寝ない関係ってないのかな…」 私は、自分の記憶を辿りながら訊ねる。 「お互いが同時にそう想ってりゃあね…。でもさ、寝たいと思う奴と、セックスなしでいい関係を保っていたいっていう奴も、同じ次元で自分勝手なんだし。その自己主張し合う者同士が折り合いつけられるわけないでしょ」 「ん~まあ確かに…」 この人の云うことは、いつも妙に説得力がある。いくつもの質問をぶつけてみても、結局のところは納得させられてしまう。 それ以前に、やりこめようとは思わないのだけれど。 「そういう相手でもいるの?」 私は横顔を見ながら訊いた。 「そういうって…どっち?」 「どっちでも」 「セックスしたい相手はいるね。彼女は全然その気がないらしいけど」 焼酎のロックを飲みながら、 和風バーのダウンライトに照らされた表情が、 わずかに歪んで微笑む。 「伝えたの、それ」 「云ったさ。…ケンモホロロにふられたよ。いい関係でいたいんだってさ。いい関係って何かね」 「やんわりとした拒絶表現でしかないに決まってるでしょ。それ以上に意味なんてないわよ。寝る気は毛頭ございません。それだけよ」 「やっぱりそうだよなあ。目先の言葉に執着しちゃってさ…冷静に考えリャわかるのに。どうにもいい関係って表現にカチンときたんだよな」 「怒鳴ったの?」 「怒鳴っちゃいないけど…」 おどけるように肩をすくめてみせる。 道化師にはほど遠い二枚目がたまに傷。 そこを捨てきれないこの人の苦しみが、私には手にとるようにわかる。 自分で作った像と、 周囲が作る像とで形成される姿と、 真実の自分のハザマで急流下りをしている感じ。 どちらにもぶつからないように、必死で流れに乗るだけ。 そうしていないと舟が岩にぶつかって転覆してしまう。 その先には、深く大きな滝壺がある。 でも私は思う。 転覆してもしなくても、滝壺に落ちて一度は飲み込まれるのに。 この人もそれをわかっているけれど、落ちる前に溺れたくないだけなのだ。 「それでも、云ったんだからまだ諦めがつくじゃない」 「簡単に云うな…。何も諦めたくて云ったわけじゃないよ。その反対」 「じゃ頼み込んだ?」 「頼むから一度寝かせてくれって? まさか」 「そこまでしたら、完全に忘れられるわよ、彼女と寝たかったことも」 「セックスだけしたいなら、ほかのやつだっているし」 「ほら、やっぱりしなくてもいいんじゃない。そのことを云ってるのよ、私。しなくて楽しい関係でいられるなら、そのままでいる選択だってあるのに」 言葉を飲み込む。 何を考えているんだろうか。 ジャンル別一覧
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